平成12から13年度にかけ、サザエ(巻貝類)の正常な殻成長方向(正常な巻き方)を妨害する障害物(シリコンゴムまたは殻片)を殻に接着させ、そのときの成長異常(異常巻き)パタンを類型分類した。また平成13年度より、殻成長を解析するコンピュータプログラム(C言語)の開発に着手し、そのフレームワークを完成した。本年度は、そのプログラムに、巻貝類の発生・成長に関する生物学的な仮定を設定し、殻成長を解析するコンピュータモデルとして再構築した。 再構築したコンピュータモデルの主要な手順は、以下の通りである。 1.巻貝類が殻を成長させるときの姿勢を、巻貝類が底質を葡匐あるいは定着している姿勢であると仮定し、殻内部の頭足塊の位置を計算する。 2.計算された頭足塊位置から、頭足塊が殻口縁のどこで殻成長の前線を押し付けているのかを推定する。 3.この押し付けによる付加殻の変形の度合いに、一定の仮定を設けることにより、頭足塊押し付けを内包した、殻成長をコンピュータ上で再現する。 このコンピュータモデルを用いた解析の結果、"殻成長方向を決定する要因を、軟体部の内在的な成長パラメタ(intrinsic growth parameters)と、頭足塊の押し付け効果(head-foot effect)に分けて解析したとき、まったく巻き成長の効果を持たない内在的な成長パラメタを用いたとしても、頭足塊の押し付け効果のみにより、巻貝類が一般的に有する規則的な巻き成長を生み出すことができ、さらに障害物に似せた殻上の突起を迂回するという実験で得られたパタンを再現することもできた。" このことから、巻貝類の巻き成長パタンを支配しているのは、内在的な成長パラメタではなく、むしろ頭足塊の押し付け効果であると結論できる。
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