走査プローブ顕微鏡(SPM)による原子レベルでの珪酸塩鉱物溶解機構の解明

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12640464
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 小暮 敏博 東京大学, 大学院・理学系研究科, 助教授 (50282728)
• キーワード: 走査プローブ顕微鏡 / 鉱物表面 / 溶解 / 黒雲母 / かんらん石 / エッチピット / 溶解速度 / 多型

研究概要

本年度はSPM用高温試料ステージの導入が13年1月にずれ込んだため、高温での実験はほとんどできなかった。このため試料を高温にする代わりに、pH=1程度の強酸溶液中での鉱物表面の溶解をSPMによってin-situに観察し、多くの成果を上げることができた。
ひとつは黒雲母(biotite)の劈開表面の溶解を原子レベルで観察することに成功した。biotiteの(001)面はpH=1の硝酸溶液中で、多くは1層ごとに溶解が進行し、この1層の溶解はその表面に高密度のエッチピットがランダムに形成されることにより起こる。その溶解速度は約2×10^<-10>mol・m^<-2>・sec^<-1>で、これは今までの粉末試料を用いた実験に比べやや大きな値となっている。この原因がbiotiteの組成によるものなのかどうかは今後明らかにする必要がある。また場所によってはこのエッチピットの深さが2層、3層となる場合が存在するという興味深い観察結果が得られた。この原因としてエッチピットとなる構造中のweak pointが、いくつかの層で繋がっている可能性が考えられる。biotiteの結晶成長は数層単位でも起こり、これによりいわゆる多型(polytype)が形成されることが知られているが、今後このエッチピットの深さと多型の関係を明らかにしたい。
また本年度は代表的な造岩鉱物であるかんらん石(olivine)についてもpH=1の硝酸中での溶解過程を観察した。olivineの様々な結晶面でどのように溶解過程や溶解速度が異なるかは興味深い問題である。今回はその(010)面をコロイダルシリカで研磨して観察を行い、エッチピットの形成速度がその面内の方向で大きく異なることを明らかにした。今後他の結晶面での溶解過程や、結晶面に垂直な方向への溶解速度の決定等を行う予定でいる。

研究成果

• [文献書誌] Kogure,T.and Banfield,J.F.: "New insights into the biotite chloritization mechanism via polytype analysis"American Mineralogist. Vol.85. 1202-1208 (2000)
• [文献書誌] Matsuda,A.,Kotani,Y.,Kogure,T.,Tatsumisago,M.,and Minami,T: "Transparent anatase nanocomposite films by the sol-gel process at low temperatures"Journal of American Ceramic Society. Vol.83. 229-231 (2000)
• [文献書誌] Kogure,T.,and Nespolo,M: "Atomic structures of plannar defects in oxybiotite"American Mineralogist. Vol.86. 336-340 (2000)
• [文献書誌] Kogure,T.,Umezawa,T.,Kotani,Y.,Matsuda,A.,Tatsumisago,M.,and Minami,T: "Crystallization of TiO_2 in sol-gel derived SiO_2-TiO_2 system : Formation of TiO_2(B) nanocrystallites"MRS Symposium Proceedings titled "Nucleation and Growth Processes in Materials". Vol.58. 213-218 (2000)
• [文献書誌] Kozlov,A.I.,Kozlova,A.P.,Asakura,K.,Matsui,Y.,Kogure,T.,Shido.T.,and Iwasawa,Y: "Supported gold catalysts prepared from a gold phosphine precursor and as-precipitated metal-hydroxide precursors : Effect of preparation conditions on the catalytic performance."Journal of Catalysis. Vol.196. 55-65 (2000)
• [文献書誌] Yamaguchi,A.,Shido,T.,Inada,Y.,Kogure,T.,Asakura,T.,Nomura,K.,and Iwasawa,Y: "Time-resolved DXAFS study on the reduction processes of Cu cations in ZSM-5"Catalysis Letters. Vol.68. 139-145 (2000)