研究概要 |
この2年間の研究に於いて、SPMを用いて珪酸塩鉱物の溶解過程を原子レベルで観察するという、当初考えていた目標はほぼ達成することができた。特に次の2例については大きな成功であったと言える。ひとつは黒雲母(biotite)の劈開表面の溶解をその場観察することに成功した。黒雲母の(001)面はpH=1の硝酸溶液中で、その多くは1層ごとに溶解が進行し、この1層の溶解は表面に高密度のエッチピットがランダムに形成されることにより起きることが明らかとなった。また場所によってはこのエッチピットの深さが2層、3層となる場合が存在するという興味深い観察結果が得られた。この結果はいくつかの学会で発表し、また今後その他のデータを揃えて論文に投稿するつもりでいる。また本研究では代表的な造岩鉱物であるかんらん石(olivine)についてpH=1の硝酸中での溶解過程を観察した。その(010)面をコロイダルシリカで研磨して観察を行い、エッチピットの形成速度がその面内のいくつかの方向で大きく異なることを明らかにした。 本研究ではさらにSPM用高温試料ステージを用いてブルーサイト(brucite, Mg(OH)_2)の(001)面におけるエッチピットの溶解速度(ステップの後退速度)の温度依存性を調べ、その活性化エネルギーを算出した。これも我が国では最初の研究例である。またこの三角形の形状をしたエッチピットとブルーサイトの結晶構造との対応をX線回折及び最近当研究室に導入された電子線後方散乱回折(EBSD)パターンによって調べ、エッチピットと結晶構造との対応を明らかにした。これらの結果は平成13年6月に開かれた米国粘土学会でポスター発表された。
|