研究概要 |
本年度は,岩石のマイクロテクトニクスに関し,高圧下で密封された岩石中のH_2O流体分布と弾性波速度について新たな知見が得られたので,その結果について報告する.岩石の組織や微細構造を決定する重要な要因の一つにH_2O流体があげられる.鉱物に比べ流体の弾性率は桁違いに小さいため,その存在形態は,岩石全体の物性に重大な影響を及ぼす.従って,例えば弾性波速度の測定値から流体分布を見積もることが可能である. 1GPaで温度の関数として測定された蛇紋岩のP波速度(Vp)とS波速度(Vs)は,蛇紋石やブルース石の脱水反応に対応する温度で著しく減少する.流体を含む系の物性と微細構造は,Vs-Vp/Vsダイヤグラム上で特徴的な振る舞いを示すことが明らかとなった.蛇紋石とブルース石の高温高圧相平衡関係と速度データとの対比から,Vs-Vp/Vsダイヤグラムにより含水試料の脱水過程と平衡状態が議論可能である.出発物質の蛇紋岩(愛媛県東赤石山産)は蛇紋石,ブルース石,かんらん石より成り,1GPa,900℃で脱水反応完結後の固相は,かんらん石と輝石より成る.つまり高温高圧下で密封された蛇紋岩試料は,脱水完結後(1GPa,900℃),かんらん石-輝石-H_2O系となる.興味深いことに,脱水後の蛇紋岩の弾性波速度は,かんらん石-輝石-H_2O系の示す弾性波速度と整合的である.低含水量ではディスク状のH_2O分布により,高含水量ではチューブ状のH_2O分布により実験室の測定データが再現された.この結果は高温高圧平衡実験により認められている上部マントル岩石の流体分布と一致する.よって本結果は,流体を含む地球内部構成物質の物性が,構成鉱物とH_2Oの物性から見積もれることを示しており,その意義は大きい.
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