研究概要 |
岩石の組織や微細構造(マイクロテクトニクス)を決定する重要な要因の一つに,岩石中のH_2O流体の分布があげられる.鉱物に比べ流体の弾性率はきわめて小さく,その存在形態は,岩石の物性に重大な影響を及ぼす.これまでの研究により,流体を含む地球内部構成物質の物性が,構成鉱物とH_2Oの物性から見積もれることを示してきたが,その意義は大きい.すなわち,上部地殻,下部地殻,上部マントルのそれぞれの物性が,例えば,石英-長石-H_2O系,輝石-角閃石-H_2O系,カンラン石-輝石-H_2O系の物性から見積もれる.部分溶融(メルト)を含む系についても同様に,鉱物-メルト系の物性から見積もれる.これらの研究成果をふまえ,地球内部低速度層の原因としてのH_20流体,あるいはメルトの存在について検討を加えることが可能である. 日本列島の場合,地殻・上部マントル低速度層の原因として部分溶融の存在が考えられる.一方,H_2O流体の存在も可能である.H_2Oの弾性波速度や代表的なメルトおよび鉱物の弾性波速度は高温高圧下で測定されている.H_2Oを含む上部地殻,下部地殻,上部マントルの弾性波速度について,それぞれ上述の鉱物-H_2O系の物性からの見積もりを試みる.同様の見積もりをメルトについても行う. メルトの体積弾性率はH_2Oのそれに比べほぼ一桁高いため,今回の鉱物-流体系の観点から,鉱物-メルト系の速度比(Vp/Vs値)は高くなり,鉱物-H_2O系のVp/Vs値は低くなる.例えば東北日本弧の詳細な3次元速度構造では,一般に,上部マントル低速度層でVp/Vs値は高く,上部地殻低速度層でVp/Vs値は低い.よって,上部マントル低速度層はメルトの存在により,一方,上部地殻低速度層はほぼH_2O流体により引き起こされている.Vp・Vsの両観測データから,H_2O量またはメルト量を別々に見積もることができる.
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