複数の生体構成アミノ酸を溶解したCaCl_2とNa_2CO_3混合溶液より、有機物/炭酸カルシウム複合結晶を沈澱法により合成した。温度、熟成時間等の条件は、アラゴナイトおよびカルサイトの結晶成長条件を用いた。 ほとんどの酸性アミノ酸および非荷電極性アミノ酸は、カルサイト成長条件ではバテライト形成を強く促進し、アラゴナイト成長条件では、わずかではあるがアラゴナイト形成を促進した。特にバテライトは、SEM観察により10μm程度のカリフラワー状の特異的な形態を呈した。 結晶を酸加水分解後、高速液体クロマトグラフを用いて結晶に含まれるアミノ酸の定量分析を行なった結果、塩基性アミノ酸および非極性アミノ酸はほとんど結晶中に取り込まれなかったが、酸性アミノ酸および非荷電極性アミノ酸は、最大0.2mol%も取り込まれていた。また、結晶中のバテライト比と結晶中のアミノ酸の濃度には相関があった。さらに、示差走査熱量計測を行った結果、バテライトからカルサイトへの転位に伴うピークの温度は、結晶に含まれるアミノ酸の分解温度と相関があることがわかった。以上のことから、酸性および非極性アミノ酸はバテライトの結晶エネルギーを変化させ構造を安定化されている、またはそれらのアミノ酸自体がピンニングセンターとなって結晶構造を安定化していると考えられる。 得られた結晶にX線を照射して生成したラジカルをESRで測定した結果、すべての結晶中にアミノ酸由来と考えられるラジカルが検出された。これらのラジカル信号はアミノ酸結晶中に形成されるラジカルと全く異なっていた。これらのことから、高濃度に取り込まれたバテライト中のアミノ酸分子間で放射線によりラジカル反応が生じる可能性が強く示唆された。
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