研究概要 |
地球の深さ300〜700kmの範囲には,メージャライト固溶体,すなわちMg3Al2Si3O12(パイロープ)-Mg4Si4O12(輝石成分)系で近似されるガーネット固溶体が多量に存在していると考えられている.この固溶体について,格子定数や圧縮率等の測定が近年数多く行われるようになってきたが,データ点が非常にばらついており,系統的な理解が充分に得られていない.本研究では,分子動力学(MD)計算によって,パイロープに輝石成分が固溶した際の結晶学的・熱力学的・弾性的性質の変化を予測するとともに,結晶内の原子配置がこれらの諸物性に及ぼす効果を考察する.本年度は,2種類のメージャライト固溶体,すなわち, 1.結晶内の8面体席でMgとSiとがオーダリングを起こして分布した正方晶系固溶体 2.結晶内の8面体席でMgとSiとがランダムに分布した立方晶系固溶体 を作成し,格子定数・体積・体積弾性率・モルエンタルピーについて,組成に応じた変化および結晶内の原子配置に応じた変化の予測を行った.現時点までに得られた結果のうち,特徴的なことがらは以下の2点である. 1.正方晶系の固溶体では格子定数aとcとの間にa>cの関係がある.結晶中の輝石成分の減少とともにaとcの値が徐々に接近していき,最終的にはパイロープ組成でaとcとの値が一致して立方晶系となる. 2.パイロープに近い組成範囲では,正方晶系固溶体と立方晶系固溶体との間で,体積・体積弾性率・モルエンタルピーの値にほとんど違いが見られない.結晶中の輝石成分がさらに増加すると,立方晶系固溶体の方が正方晶系固溶体に比べて体積は相対的に大きく,体積弾性率は相対的に小さく,またより高エンタルピーとなっていく.
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