地球物質圏の形成と進化、さらに地球環境の変遷、変動メカニズム、維持機構を地球システムの様々な因子の相互作用として総合的に理解するには、地球物質圏に対する生命圏の影響を正確に評価する必要がある。生命圏を構成する生物のうち、微生物は約38億年前に誕生して以来、大気中から深海底、地表から地下数千mの地殻深部、氷点下の極地から100℃以上の熱水環境など、地球内部を除く地球物質圏のほぼ全域に生息しているため、時間軸・空間軸の上で地球物質圏との関わりがきわめて大きいと考えられる。そこで、本研究では地球物質圏に対する微生物の影響を明らかにすることを目的として、風化堆積物中(入戸火砕流堆績物、アカホヤ火山灰、開聞岳火山灰、桜島火山灰)での微生物のイオン濃集と鉱物生成について検討した。その結果、これらの風化堆績物中には膨大な量(10^7〜10^8cells/g)の1.0〜2.0μmサイズの球菌及び桿菌が生息し、その大部分は菌体表面に厚さ<2μmのAl、Si、Feを主体とする非晶質繊維状珪酸塩鉱物を生成していることが明らかとなった。EDX分析の結果、これらバクテリア表面の珪酸塩鉱物は共存する非生物起源二次鉱物(アロフェン叉はハロイサイト)とは明らかに異る化学組成を示し、アロフェン-ノントロナイト-シャモサイト領域の幅広い化学組成を特徴とする。一方、間隙水の飽和度は、非晶質SiO_2、非晶質Al(OH)_3、バイデライトに不飽和、フェリハイドライト、アロフェン、ハロイサイト、ノントロナイトに過飽和であることから、ハクテリア細胞の表面が間隙水中のAl、Si、Feイオンの結合サイトとして機能し、これらを核としてAl-Si-Fe非晶質固相の生成が進行していることを示唆した。さらに、これらのバクテリアは間隙水中に種々の有機酸(乳酸、酢酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸)を放出していることが確認され、有機酸生成による鉱物の溶解促進作用をもつことも明らかとなった。
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