研究概要 |
北西部北太平洋の亜寒帯(50°N,165°E)、亜熱帯(40°N,165°E)及びその移行域(44°N,155°E)での計3観測点で0-3500mにおける各層の海水について、また春季植物プランクトンブルームが発生した高生産域とそれ以外の低生産域表層(0-250m)における各層の海水について、3価鉄の溶解度と溶存鉄濃度を調べた。一般に、クロロフィルーa濃度が高い表層混合層では3価鉄の溶解度は高い。これは、植物プランクトン及びシアノバクテリアから放出された3価鉄と溶存有機錯体鉄を形成する有機リガンドによるものと推察される。海洋表層においては、シデロフォアのような3価鉄と特異的に溶存有機錯体鉄を形成する有機リガンドが存在しており、藻類の鉄摂取及び生長に重要な役割を果たしていることが解った。例えば、シデロフォア有機錯体鉄からのシデロフォアの熱的分解によるFe(III)解離から生物利用可能な向きFe(III)の供給がおこり、植物プランクトンの増殖を促したものと結論づけた。また表層混合層以深では、3価鉄の溶解度は深度とともに増加し、栄養塩濃度と著しい相関がみられ、分解過程で放出変成された有機リガンドによると考えられる。また表層混合層以深の溶存鉄濃度の鉛直分布は3価鉄の溶解度の鉛直分布と非常に類似しており、海洋における有機リガンドの存在が、溶存鉄濃度をコントロールしている重要な因子であることを示している。
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