(1)Dirac方程式の解である波動関数は4つの成分からなっている。Dirac方程式を解いて化学シフトに対する相対論的効果を計算する場合、4成分方程式のままで解く方法と、2成分(大成分)方程式に変換してから解く方法の2つの方法がある。(2)4成分方程式を解く場合、解の中にはすべての相対論的効果が含まれている。しかし、小成分を基底関数で展開するためには、大成分の展開よりも約2倍の基底関数が必要となり、4成分計算は多大の計算時間を要する。(3)4成分方程式を大成分のみを含む2成分方程式に変換してから解く方法には、計算量が少なく、かつ、従来のSchrodinger方程式のプログラムがほとんどそのまま使えるという利点がある反面、すべての相対論的効果を完全に含むことは非常に困難となる。(4)本研究では、2成分方程式に変換してから解く方法を採用した。2成分方程式に変換する場合、自由電子に対する変換には厳密解が存在することを利用して、原子核によるクーロンポテンシャルを摂動とみなす、いわゆるDKH変換法を用いた。本研究では、2次のDKH変換を用いる方法、即ちDK2法によって計算を行った。(5)すべての相対論的効果を完全に含むことは非常に困難である。そこで、本研究では、相対論的効果を含む程度の異なる4つのレベルで計算を行い、4成分の計算結果と比較した。4成分計算との比較によって、2成分方程式に含まれる種々の相対論的効果の重要度を調べた。その結果、磁気的な項と相対論的質量効果との間の相互作用が最も重要であるという結論を得た。(6)現在(3月26日)、研究成果をアメリカの物理学会誌J.Chem.Phys.に投稿中である。投稿してから2ヶ月になるが、まだ、refereeのcommentsは届いていない。
|