研究概要 |
本年度は、電子励起分子の振動状態を観測するための紫外-赤外二重共鳴分光法の手法を確立することを目的とした。実験はまず、超音速ジェット中に生成した極低温気相孤立分子や分子クラスターをナノ秒紫外レーザー光で電子励起状態のゼロ点振動準位に励起し、その準位からの全蛍光や分光した蛍光を光電子増倍管で検出した。 この条件下で、高輝度波長可変赤外レーザー光をほぼ同時に照射し、電子励起状態分子をOH、CH振動準位に励起した。その後に起きるダイナミックスを利用して以下の二つの分光法を開発し、S_1電子状態の振動スペクトルの測定に成功した。 (1)振動励起状態の蛍光量子収率の変化を利用する赤外分光法 S_1状態のOH,CH振動状態準位の蛍光量子収率がゼロ点準位よりも小さい場合、赤外レーザーで振動状態に励起すると全蛍光量が減少する。従って、全蛍光をモニターしながら赤外光の波長を掃引し、OH,CH振動準位の赤外スペクトルを、蛍光検出ディップスペクトルとして観測した。 (2)振動励起状態の振動エネルギー緩和を利用する赤外分光法 OH,CH振動準位のエネルギーは約3000cm^<-1>と大きく、励起された分子やクラスターは振動緩和や振動前期解離して異なった波長領域に蛍光を発する。そこで、緩和状態からの発光や、解離生成物の発光を検出しながら赤外光を波長掃引すると振動スペクトルが得られる。 上記の方法を用い、まずベンゼン、トルエン、アニリン、ナフトール単量体のS_1電子状態のCH、NH,OH伸縮振動の観測に成功した。さらに現在スペクトルのSN比の向上を試みている段階である。
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