研究概要 |
通常の分光法では困難であった気相分子、分子クラスターの電子励起状態(S_1)のX-H(X=C, O, N)伸縮振動状態を観測するとともに、振動状態の緩和や、反応のダイナミックスの研究を行った。 平成12年度では、電子励起分子のX-H振動状態の観測方法として、紫外-赤外二重共鳴分光法を開発した。この分光法では、超音速ジェット中に生成した気相孤立分子や分子クラスターを、紫外レーザー光でS_1電子状態のゼロ点準位に励起した直後に赤外レーザー光を入射し、X-H振動準位に励起した。その条件下で、初期振動準位や緩和準位からの蛍光を観測した。実験の結果、以下の二つの測定法を適用できることが分かった。(1)振動励起状態の蛍光量子収率の変化を利用する赤外分光法、(2)振動励起状態の振動エネルギー緩和を利用する赤外分光法 平成13年度では、実際に分子やクラスターのS_1状態のX-H振動の観測を行った。対象とした系は、ベンゼン、トルエンのC-H伸縮振動や、アニリン、ナフトールのN-H、O-H伸縮振動である。これらの振動状態は、本研究で初めて観測することに成功した状態である。解析の結果、ベンゼン、トルエンでは、S_0状態に比べS_1状態で芳香環側のC-H伸縮振動の振動数が増加するが、逆にメチル基側のC-H伸縮振動の振動数は低下することが分かった。また、アニリンでは、N-H振動の振動数がS_1状態で500cm^<-1>と著しく低下し、さらにS_1電子状態のわずか3500cm^<-1>高波数側に第二電子励起状態S_2(πσ^*)が存在することを見いだした。S_2(πσ^*)電子状態は、芳香族分子のS_1状態の光化学反応を支配する重要な状態であるため、今後の研究継続が必要とされる。同様の観測を水素結合クラスターについて行った。その結果、0-H振動に励起されたクラスターは、速やかに振動緩和し、さらに振動前期解離することを明らかにした。
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