研究概要 |
高強度・長波長レーザー場(>10^<13>W/cm^2,λ>700nm)中では電子波動関数が光の半周期(【approximately equal】1fs)以内でも劇的に変化する.レーザー電場ε(t)と相互作用するクーロンポテンシャル系の時間依存Schrodinger方程式を厳密に解くことにより,水素分子では電子がε(t)に対して断熱的に動き,イオン結合性の状態H^+H^-とH^+H^-が電場の周期に応じて交互に生成することが明らかになった.このように誘起された分子内電子移動は核が感じる断熱ポテンシャルを大きく変化させ解離(結合軟化)や多原子分子では構造変化をもたらす.また,核間距離が伸びたところでトンネル型イオン化(電子が電場によって大きく歪んだクーロンポテンシャルを透過することによる)が大きく促進される増強イオン化の原因にもなっている. これらの現象の鍵となる電子の動きはε(t)に追従する時間依存断熱電子状態とそれらの間の非断熱遷移(ε(t)の時間t依存性による)の考えによって説明できる.対応する時間依存断熱ポテンシャル上を核が動くという考えに基づけば,大きな分子のε(t)による変形も基底及び主要な励起電子状態を求めれば解析できる.一例を挙げると,レーザーで生成したCO_2の多価イオンは大きく曲がっていることを明らかにした.これは,レーザー場によってCO^<2+>_2の結合距離が1.2から1.6Åあたりまで伸び,それに伴って大振幅の変角振動が誘起されるからである.この機構は山内らの実験結果をうまく説明する.一般に,レーザーの振動数が分極率を変化させるモードの振動数より大きい場合,分極率が大きくなる方向に分子変形が起こることを明らかにした.変形の振幅はレーザー強度に断熱的に追従する.分子変形やトンネル型イオン化の制御法も提案した.
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