研究概要 |
本研究課題では、光化学反応において数多い報告がありながら未だにその反応の描像が明確でないスチルベンおよびその誘導体(スチルベノイド)の電子励起状態とダイナミックスに関する検討を非経験的分子軌道計算により理論的立場から行った。スチルベノイドくらいの比較的大きな分子になると数原子分子の電子励起状態の定量的議論において用いられるCASSCFやMRMP2法などをそのまま適用することはできない。そのため、CI計算により問題とする電子励起状態を記述するのに必要な分子軌道群を見積もり、その分子軌道群内でCASSCFやMRMP2法を行うというスキームによって現実的な計算規模に減じ、スチルベノイド系分子の電子励起状態の定量的計算を可能とした。以下、具体的に取り扱った分子について述べる。 1)スチルベン:トランス、シス体の電子励起状態やその安定構造等について検討した。その計算結果は実験的に報告されている種々の物理量と良好な一致をみた。また、シス-トランス光異性化が起きる円錐交差領域の幾何学構造およびその電子状態についても検討した。それはビラジカルと電荷移動状態の交差領域にあたるもので、実験結果に基づく推定を裏付けるものである。 2)スチレン:スチルベンと同様な検討を行い、種々の実験結果に対する合理的な解釈を可能とする結果を得た。また、スチレンくらいの大きさであれば、上記の計算規模に関する縮約スキームを用いない計算も可能であり、両者の結果は本質的に変わらないことが分かった。これは本縮約スキームが実効的であること示すものである。 3)4-ジメチルアミノ,4'-シアノスチルベン:気相中におけるポテンシャル面および極性溶媒中における自由エネルギー面の計算を行った。その計算結果は、種々の実験結果を合理的な説明を可能とするものである。その一例として、極性溶媒中において大きくレッドシフトする蛍光はジメチルアニリノ捩れ型の分子内電荷移動状態によるものであることが分かった。
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