研究概要 |
本年度は,電子-分子振動相互作用を解析するために,チオフェン5量体およびその橋架け2量体の中性種とイオン種の振動スペクトルに関する研究を行った. 側鎖に種々のアルキル基をもつキンクチオフェンの中性種及びラジカルカチオンと,その2量体モデルとなる[2.2]キンクチオフェノファンの中性種及びジカチオンの分子構造および赤外・ラマンスペクトルを,密度汎関数法を用いて計算し,中性種については赤外・ラマンスペクトルを実測した.側鎖にオクチル基を2つ及び4つもつジメチルキンクチオフェンとその橋架け2量体の中性種について赤外吸収スペクトルとラマンスペクトルを実測したところ,両者とも計算スペクトルと比較的良い一致を示した.メチル基を側鎖にもつ[2.2]キンクチオフェノファンのジカチオンと2,5""-ジメチルキンクチオフェンのラジカルカチオンの計算赤外吸収スペクトルを比較すると,橋架け2量体のジカチオンに特徴的なバンドが1357,1308,1185,1171,1162,1088,1067cm^<-1>に計算された.これらのバンドはいずれも,単量体ではほとんど計算赤外強度を持たない振動が,2量体において逆位相で振動するモードである.これらの振動モードについて,それぞれ振動方向に変形させた時に生じる双極子モーメントを計算したところ,一方のキンクチオフェン部からもう一方のキンクチオフェン部に向かって双極子モーメントが発生し,その大きさは計算赤外強度にほぼ比例していることがわかった.このことから,[2.2]キンクチオフェノファンのジカチオンに特徴的な赤外吸収は,2つの共役分子部で共有している電子が分子振動に伴ってやり取りされるような振動モードであり,非常に強い赤外吸収強度を持つようになると解釈できる.
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