研究概要 |
(1)赤外光ファイバー・プローブを用いた有機ラジカルイオン溶液の赤外吸収スペクトル測定法の開発 有機ラジカルイオン種の生成方法として最も確実で,かつ多くの有機分子に適用できる方法は,溶液中で中性分子を化学的にFeCl_3,SbCl_5などを用いて酸化したり,アルカリ金属で接触還元する方法である.本研究では,赤外領域を透過する比較的柔軟な光ファイバー・プローブ(カルコゲナイドガラス製,本科学研究費補助金で購入)を用いることによって,真空ガラス反応容器中でのみ安定に存在する有機ラジカル種の赤外吸収スペクトルを測定する方法を開発した. (2)チオフェン5量体およびその橋架け2量体の中性種とイオン種の振動スペクトルに関する研究:電子-分子振動相互作用を解明 側鎖に種々のアルキル基をもつキンクチオフェンの中性種及びラジカルカチオンと,その2量体モデルとなる[2.2]キンクチオフェノファンの中性種及びジカチオンの分子構造および赤外・ラマンスペクトルを,密度汎関数法を用いて計算し,中性種については赤外・ラマンスペクトルを実測した.側鎖にメチル基をもつ[2.2]キンクチオフェノファンのジカチオンと2,5""-ジメチルキンクチオフェンのラジカルカチオンの計算赤外吸収スペクトルを比較すると,橋架け2量体のジカチオンに特徴的なバンドが1357,1308,1185,1171,1162,1088,1067cm^<-1>に計算された.これらのバンドはいずれも,単量体ではほとんど計算赤外強度を持たない振動が,2量体において逆位相で振動するモードであり,2つの共役分子部で共有している電子が分子振動に伴ってやり取りされるため,非常に強い赤外吸収強度を持つようになったと考えられる.
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