メゾスコピックな系には、溶質-溶媒分子系、吸着分子-表面系などのインターフェイス系、直鎖ポリエンなどの無限系のモデル、クラスターなど、数多くの化学的に重要な系が含まれる。本研究ではメゾスコピンク系の定量的量子化学理論の開発とプログラムパッケージの開発をする事によって理論を計算機へ実装し、メゾスコピック系のab initio分子軌道計算を行うこと、また、その応用として、視覚の初期化学過程に対する理論的アプローチを行うことを目的としている。 今年度は、次の点に焦点を絞って、メゾスコピック系の定量的な分子軌道理論の開発、及び、そのアルゴリズムとプログラムコードの開発を行い、次年度以降予定している現実的なメゾスコピック系の分子軌道計算の実現、視覚初期化学過程の機構解明のための準備とした。 メゾスコピック系の非経験的分子計算を困難にしている最大の要因は、原子の数の4乗に比例し、複雑な解析的処理を要する分子積分の計算である。この問題に対し、既存のあらゆる分子積分の算法のうち計算量が最小であると知られている石田による随伴座標展開法を利用した高速分子積分のアルゴリズム、プログラムを開発し、従来のものと比較して、数倍から数十倍高速であることを実証した。 定量性記述に際して必須である電子相関効果については、多配置SCF法と多配置摂動法によって取り入れる。研究代表者らの開発したQCAS-SCF法と呼ばれる方法は、計算コストが従来のCAS-SCF法と呼ばれる方法と比較して非常に小さく、系のサイズに対する依存性もそれほど大きくないという、大規模系の計算手法において非常に有利な性質を持っている。QCAS-SCF法のアルゴリズム、プログラムの開発を行い、従来のCAS-SCF法とほぼ等しい精度で、化学反応のポテンシャル・エネルギー曲面、励起エネルギー算出することを示した。また、多配置摂動法MC-QDPT法を活用し、QCAS-SCFのような多配置SCF関数を基に、さらに高度な電子相関をとり入れることにも成功している。
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