研究概要 |
メゾスコピックな系には、溶質溶媒分子系、吸着分子表面系などのインターフェイス系、直鎖ポリエンなどの無限系のモデル、クラスターなど、数多くの化学的に重要な系が含まれる。本研究ではメゾスコピック系の定量的量子化学理論の開発とプログラムパッケージの開発をする事によって理論を計算機へ実装し、メゾスコピック系のab initio分子軌道計算を行うこと、また、その応用として、視覚の初期化学過程に対する理論的アプローチを行うことを目的としている。今年度は、次の点に焦点を絞って、メゾスコピック系の定量的な分子軌道理論の開発、及び、そのアルゴリズムとプログラムコードの開発を行い、次年度予定している視覚初期化学過程の機構解明のための準備とした。 これまで、メゾスコピック系のための分子軌道理論として、QCAS-SCF法、および、それを基にした摂動論QCAS-QDPT法を開発してきた。本年度は、それをさらに拡張し、系の特徴にあわせて、任意の電子配置を選択することができる一般MC-SCF関数を用いた多配置多状態摂動論GMC-QDPT(Quasi-degenerate perturbation theory with general MCSCF reference functions)を開発した。ホルムアルデヒドの価電子励起エネルギーの計算では、MCSCFでは実験値と0.2〜0.8cVの誤差を残している、一方,GMC-DPTでは、それが〜0.28eVまで縮小し、実験値をよく再現する結果を得た。 大規模系においては、局在化された分子軌道によって電子状態が構成できる。ここでは、さらに、密度汎関数を用いた電子相関を取り込む理論であるELMO-D:FT法の開発を行った。この方法では、従来の密度汎関数法と異なり、非直交軌道を用いることができるため、局在化の度合が大きく、より少ない軌道係数でより大きな系を取り扱うことが可能になった。
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