研究概要 |
平成12年度において行われた,多種の分子内水素結合のキャラクタリゼーションのスクリーンニングの結果に基づいて,本年度は,典型的なダブルミニマムポテンシャルを有する代表として,Benzoic acid dimer(BA),また,ダブルミニマムと,シングルミニマムポテンシャルの中間的なポテンシャルを有する例として,Dibenzoilmethane(DBM)を取り上げ,その、重水素、プロトン、酸素-17,炭素-13、などの核の、化学シフト、および、スピン-格子緩和時間(T1)等の測定から,以下の成果を得た。 (1)上記のように,DBMのプロトン異動ポテンシャルは,ダブル,シングルミニマムの中間的性質を持ち,分子間相互作用により大きな摂動を受けることが予想される。このことに注目して,DBMの分子内水素結合の静的動的構造に対する溶媒の効果を調べた結果を以下にまとめる。(i)DMSOのような極めて極性の強い溶媒中でも,プロトン移動のポテンシャルバリアーは,0..H-0のゼロ点振動エネルギーより優位に大きくはならない。 (ii)(i)のことから,水素結合を形成する核の磁気緩和に対しては,プロトン移動ダイナミックスの寄与はちいさく,プロトンの空間位置,とくに,その空間的分布幅(非局在化の程度)が主に寄与する。(iii)プロトンの非局在化の程度はDMSOのような大きな極性を有する溶媒中で小さくなる。 以上の結果をさらに詳細に検討して,磁気共鳴から得られた結果に基づいて,プロトン移動ポテンシャルを演繹する方法について検討を進めている。 (2)種々の溶媒中で,磁気緩和に対するBA dimerのプロトン移動ダイナミックスの寄与は小さく,主に分子回転に支配されていることが判明した。このことは,プロトン潜在時間がこれらの溶媒中では〜1--11秒より長いことに対応する。この結果を踏まえて,高粘性の長鎖炭化水素交互右傾での実験を行った。(媒体の誘電的性質をほとんど変えず,分子の回転緩和時間のみをチュウニングするモデル系として考えている。)予備的な解析の結果から,無極性の環境中でのプロトン滞在時間は5x10秒であることが判明した。この値は,これまで報告されている種々のレベルの理論計算から予測される値に比べかなり大きい。現在,実験データの詳細な解析とともに,反応ポテンシャルと分析的反応速度定数を結ぶ反応論のみなをしも検討している。
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