研究概要 |
本研究は平成12年度から発足したもので、相転移に伴う構造変化の詳細を、二次元検出器回折計による単結晶X線構造解析によって研究するものである。 先に相転移に伴って単結晶状態が保持されるアシル尿素誘導体RCONHCONHR'結晶(R=i-C_5H_<11>,R'=C_2H_5)(1)について、転移点前後の構造変化の詳細を明らかにしたが、本年度は相転移に際して結晶が壊れるR=n-C_5H_<11>,R'=CH_2Cl(2)誘導体結晶について、粉末X線回折によって構造の温度変化を検討した。この結晶の転移点、融点、転移熱はそれぞれ346K,384K,17kJ/molであり、この転移熱は(1)の転移熱(1kJ/mol)に比べるとかなり大きい。実験室系で温度分割粉末X線回折強度を測定したが、高温相は場合は全く格子定数を決定することができなかった。そこで、高輝度光科学研究センターにおける放射光施設SPring-8のBL02B2ビームラインを用いて温度分割粉末X線回折強度(300〜340Kでは10Kおき、340〜350Kは1Kおき)を測定した。放射光の場合、入射強度も強くビームの平行性もよいため、実験室系に比べて回折線の分離が非常に向上し、高温相の格子定数を決定することができた。また、低温相の構造を初期モデルとしてsimurated annealing法によって高温相の結晶構造を求めることができた。 低温相ではacylurea骨格部分がNH...O水素結合で一次元的に配列しており、これに垂直方向にn-C_5H_<11>基があることは(1)と同様であるが、(1)では一次元鎖が平行に並んでいるのに対し、(2)では隣合う鎖の傾きが逆方向になっている。高温相では隣合う鎖の傾きが同じになり、また、アルキル基部分のコンフォメーションに大きな変化と乱れがみられた。これは相転移に伴って、かなり大きな分子全体の動きがあることを示している。 現在有機結晶の粉末X線回折による構造解析は緒についたばかりで、解析例はまだ非常に少ない。高温相のように乱れのある状態の構造解析が可能になったことは画期的な成果である。
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