両親媒性分子は、溶媒中において、ある濃度(臨界ミセル濃度)を越えると自己組織化を起こし、ミセルを形成する。そのサイズ分布及び形態を第一原理的に(即ち、実験データを参照することなく、原子間相互作用のみから理論的に)予測するための方法論の改良研究を進めた。3通りの単純なモデル系に対し、その方法論を適用した計算をさらに進め、以下の結果を得た:(1)両親媒性分子の濃度の関数としてサイズ分布を計算することができる;(2)臨界ミセル濃度の概略値を見積もることができる;(3)形態をサイズ毎に特定できる;(4)従来の、溶媒分子と両親媒性分子を同時に扱う計算機シミュレーション法に比べると、計算ロードが大幅に軽減する;(5)溶媒の効果が非常に大きく、それを精密に取り込まねばならない;(6)円筒状、板状など、球状以外の秩序形態は、主に溶媒効果によって形成される;(7)形態は、両親媒性分子の種類やミセルのサイズによって多様に変化する。次に、溶媒和自由エネルギーの計算値の信頼性を向上させるため、RISM理論で用いているHNC方程式に組み込むべきブリッジ関数の評価法を開発し、実測データの存在するアミノ酸やアルカンなどに対してその有効性を確認した。ミセル間相互作用に関する予備的な理論解析を実施した。やはり、両親媒性分子間の相互作用の寄与よりも、溶媒の存在によって誘起される相互作用の方が圧倒的に大きいことが示された。ミセルが近づいても、両親媒性分子層中にいくつかの溶媒分子が挟まれた距離から斥力性の相互作用が生じることが分かった。これは、ミセルの表面が親溶媒性であることに起因する。現在、上記の研究を現実的なモデル系に拡張することを検討中である。
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