方法論および溶媒効果の大きさの点で、ミセル研究と共通性を有する蛋白質立体構造予測などの生体系に関する研究をも並行して進めた。 溶媒の効果を分子性流体用の統計力学理論として知られるRISM理論によって取り込み、複数の界面活性剤分子で構成される超分子の構造サンプリングに対してのみ徐冷モンテカルロ法を適用し、両者を1つの熱力学理論で統合させる複合型方法論を構築した。この方法論を用い、単純化モデルに対するミセル水溶液の解析研究を実施した。界面活性剤分子の構造と臨界ミセル濃度、ミセル形態、及びミセルサイズ分布との関係を調べると共に、物理的考察を加え、多くの有用な情報を得た。現実的なモデルを用いた解析に発展させ、温度を上げると非イオン性界面活性剤分子のミセルサイズが大きくなることの物理化学的要因を明確にしつつある。 広く一般の溶質分子に対し、RISM理論のHNC型のClosure方程式中に斥力性のブリッジ関数を導入する簡便な方法を開発し、20種類のアミノ酸やポリペプチド(アミノ酸残基数N=2-7)の熱力学量の計算値が、大幅に改良されることを示した。さらに大きなペプチド(Nが10を越えるもの)で、丸まった構造を取る場合には、上記の改良法は依然として不充分であることも分かっており、今後さらに検討する必要がある。 積分方程式論の3次元バージョンは、その長大な計算時間のため、複合型方法論では使用できないが、溶質分子のいくつかの代表的な構造に対して、その溶媒和構造を微視的に詳細解析する場合に有用である。その具体例として、コロイド分散系や生体系におけるエントロピー的排除容積効果の役割に関する検討を実施した。特に、エントロピー的排除容積効果だけで、生体高分子間の鍵-鍵穴間相互作用に高いサイズ選択性が生まれることを初めて示した。
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