側鎖に芳香族基を持つ高分子系(芳香族ビニルポリマー)には、芳香族基カチオンを電荷担体とした光電導性を固体状態で示すものが多い。巨視的なスケールでの光電導現象は、キャリア発生(電荷分離)とキャリア輸送(電荷シフト反応)に大別される。この2つの過程には、数個以上の芳香族基にカチオンが非局在化したカチオン状態が、重要な役割を果たしていることが強く示唆されている。この非局在カチオン状態の生成に対して、以下のように研究を行なった。 高分子系のカチオンの電子スペクトルは、モノマーカチオンと比較して、隣接基との相互作用に由来するブロードな形状を示す。このブロードな吸収はピコ秒レーザーの分解能以内に現れることから、カチオン状態は、本質的に大きな分子運動を必要とせずに、ある程度非局在化した状態をとると考えられる。またこのような状態の生成が、従来考えられてきたキャリア発生に対応するとも考えられる。この電荷シフト反応の始状態である電荷分離直後のカチオンの非局在化程度を、基底状態で弱い電荷移動(CT)錯体を形成する電子受容体を加え、CT吸収帯の選択励起により時間原点で電荷分離を行わせ、フェムト秒レーザー分光装置により測定した。一般的に基底状態のCT吸収スペクトルは、モノマー系と大きくは異ならないので、生成直後のカチオンのスペクトルは、モノマーカチオンのものに類似していると期待できる。従って、スペクトルをモニターすることで、モノマーに局在化したカチオンあるいは、少なくとも2つ以上に非局在化したカチオンの区別が可能である。今回の実験の結果、150fsのパルス幅を持つレーザーでは、カチオンのスペクトルの時間変化は観測されなかった。すなわち、非常に高速(数10fs以内)に、カチオン状態の非局在化が進行することが判明した。また、ホール移動過程に対する溶媒効果をピコ秒過渡吸収分光並びに二色性の測定を行い検討した。その結果、これらの非局在化の度合いは溶媒の極性にも大きく依存し、溶媒極性の低下と共に非局在化の度合いは小さくなることが示された。
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