研究概要 |
本研究は,多成分超臨界流体における溶媒和について基礎的な理解を深めるために,2成分超臨界流体の高分解能ラマンスペクトルの測定を行って,溶媒・溶質それぞれの分子状態を同時に調べることを目的とした。今年度は,昨年度に構築・整備した高圧システムとラマン測定系の特性を調べる作業を継続し,ついでCO_2とベンゼンの系について詳細な測定を試みた。 まず,あらかじめプログラムされた背圧調整器の圧力調整機能は現実のラマン測定セルに十分には適応しないことが分かり,圧力調整弁のストロークをマニュアル設定できるようにした。また,溶媒(CO_2)と溶質(ベンゼン)それぞれの送液量をある値に設定していても,背圧の設定値を変えると流量に長時間の変動が始まる。さらに,高圧システムのこれらの設定を一定に保っても,ラマン測定セルの温度を変化させると2種の物質の現実の相対的流量,したがって試料の組成が変化してしまう。現時点で最善と考えた装置を用いてもこのような問題が発生するので,2成分超臨界流体のラマン散乱を測定するためのよい条件を時間を掛けて検討した。その結果,温度を一定として高圧状態から段階的に圧を下げスペクトル測定をすることとし,CO_2とベンゼンの系について測定を行った。その結果,臨界温度より6K高い条件では,ベンゼン環全対称伸縮モードのバンド幅は密度とともにわずかに増加し,バンド波数は密度とともにわずかに減少した。これらの結果は,ベンゼンがCO_2によって受ける溶媒和がごく弱く,またベンゼン同士の特異的な相互作用も特にないことを示している。現在,CO_2とベンゼンの系についてさらに多様な条件で測定を試みるとともに,クロロベンゼンやアセトニトリルなど,双極子モーメントをもつ分子を溶質とする試料について測定を計画している。
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