自然放射増幅光(ASE)は、原子・分子の二準位間の遷移により生じた自然放射光が、高密度に反転分布した媒質自身の誘導放射過程により増幅された光である。本研究ではASEのこのような特徴を利用した二つの手法を用いて、NO分子のカスケード的なRydberg状態間ASE放射緩和過程を操作することを試みた。 第一の手法は、自然放射光が増幅されるために必要な条件である、反転分布を解消させるものである。この方法は反転分布を生成/解消することでASEをON/OFFすることから「スイッチング法」と呼ぶ。第二の手法は、ASEが誘導放射過程により増幅された光である点に着目したもので、「シード法」と呼ぶ。ASEを発生している反転分布媒質に、そのASEと同波長の光を外部からシード(種)光として導入することで当該ASE遷移を増幅する。この場合、反転分布媒質は外部信号に対する増幅器として働く。 前者では、二つのASE緩和が競合しているとき一方の下位準位にpopulationをあらかじめ分布させ反転分布を解消すると、そのASE遷移が抑制されるとともに他方のASE遷移を経る状態占有数の流れが増大することが確認された。 後者では、シード光の増幅器として作用する反転分布媒質が、シード光の波長だけでなくその偏光面に依存した形で相違した増幅率を示すことが明らかとなった。カスケード的なASE緩和経路が複数競合しているとき、そのうちの一つの経路の初段ASE遷移をシード増幅することで、引き続くASE遷移も強度が増していた。このことはシード光の導入により状態占有数の移動の方向が強制的に誘導されていることを表している。
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