研究概要 |
"シガテラ"と呼ばれる魚介類による食中毒の原因物質であるシガトキシン類は,フグ毒テトロドトキシンの30倍も強力な毒性を示す。この食中毒にかかると下痢,嘔吐,ドライアイスセンセーション等の症状が長期間続く。シガトキシンが神経細胞の電位依存性ナトリウム・チャネルに特異的に結合するためである事が解っているが,天然から超微量しか得られないので,実験に必要なサンプルの供給が滞っており詳細については未だに不明である。そこで,超微量天然毒シガトキシンおよびその類縁体を化学合成により供給し,分子レベルでの活性発現機構を解明する事を目的に研究を行った。平成12年度は,まずシガトキシンの類縁体のひとつであるCTX3Cの全合成研究を行った。私は既に,アルキル化とオレフィンメタセシス反応を利用した環状ポリエーテルの収束的合成法の開発に成功しているので,この方法論を用いてCTX3CのABCDE環部の短段階収束合成に成功した。この際,アルキル化反応における立体選択性は満足のいくものではなかったが,光学活性なアミノインダノール誘導体を不斉補助基として用いることで高立体選択的なABCD環部の合成法を開発した。前年度にTebbe試薬による閉環メタセシス反応を用いたIJKLM環部の合成を行ったが,反応に再現性が無いことが明らかとなった。そこで,低原子価チタンを用いた分子内環化反応を利用したところ再現性良く,また大量合成にも適用可能であることが分かり,HIJKLM環部の短段階収束合成に成功した。今後,ABCDE環部とHIJKLM環部とのカップリングを行いCTX3Cの全合成を完成する。
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