まず、電子移動反応であることが明らかになっている反応系として、アリルスズとベンジルとの反応を取り上げた。アリルスズ分子内に塩基あるいは求核種として働く配位性官能基を導入し、電子移動反応やそれに引き続く反応に対する影響を検討した。スズ反応剤としてアルコール性水酸基(1)、エーテル基(2)、エステル基(3)およびアミノ基(4)をもつものを合成した。比較のため、ルイス酸としてBF_3・OEt_2を用いた反応を試みたところ、2、3は付加生成物を与えたが、1、4はアリルスズの付加が進行しなかった。一方光反応では、1〜3で付加生成物が得られ、光反応ではルイス酸促進反応とは異なり水酸基によっても反応が阻害されないという重要性が明確になった。また、1〜3の官能基の違いによる反応性に対する影響を評価するために、β-メタリルスズとの競争反応を検討した。その結果、2、3についてはこれらの酸化電位の違いから説明できるものであるが、1については、特に非極性溶媒中で酸化電位から予想されるよりも反応性が高いことが明らかになった。この理由についてはまだ十分には明確でないが、1とベンジルとの水素結合が重要な役割をもっているものと考えられる。1に類似の不斉アリルスズを用いて反応を行ったが、不斉誘導は確認できなかった。4の光反応では、窒素からの電子移動のためと考えられるが、付加反応は進行しなかった。しかし、反応系にマグネシウム等の金属イオンを添加すると、効率よく付加生成物を与えることが明らかになった。これは、窒素(塩基)と金属イオン(酸)との相互作用の結果と考えられ、新しい光反応系の構築につながるものと期待される。
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