研究概要 |
まず、置換アリルスズとベンジルとの反応を検討した。昨年度、水酸基をもつアリルスズが非極性溶媒中で他の置換アリルスズより反応性が高くなることを見いだしたが、この原因を明らかにすべく置換アリルスズの酸化電位と反応性の関係について検討した。その結果、水酸基をもつアリルスズは非極性溶媒中で酸化電位が低下していることが明らかとなり、電子移動による中間体に溶媒効果が働いているものと結論された。類似の水酸基の効果を探るために、置換ベンジルスズについても検討を加えた。フェノール性水酸基をもつにもかかわらず、光反応により基質である1,2-ジケトンに置換ベンジル基を収率よく導入できることが判明し、合成的な有用性も明らかになった。また、o-位に水酸基がある場合に反応の効率が高くなる傾向が見られ、アリルスズの場合と同様の効果があるものと考えられる。 次に、アリルケイ素化合物を光電子移動反応系に利用することを試みた。しかし、その酸化電位が高く、これまでカルボニル化合物の系での電子移動型アリル化は行われていない。そこで、ルイス酸として働く過塩素酸マグネシウムにより、カルボニル化合物を活性化したところ、フェナントレンキノン-アリルトリメチルケイ素の組み合わせで光電子移動反応によるアリル化が収率よく進行することを明らかにした。さらに、酸化電位の低いベンジルケイ素化合物では、同様の方法で1,2-ジケトン類ともアリル化が進行した。一方、アリルケイ素化合物の活性化法として、求核剤(塩基)によるケイ素の高配位化を、この光反応系に適用したところ、アリルトリアルコキシケイ素化合物にフッ化物イオンを作用させた場合にベンジルの光アリル化が低収率ながら進行し、初めて高配位ケイ素化合物を利用した反応系を構築できた。 このほか、ルイス酸を用いたアリルケイ素・スズ化合物の反応における立体化学に一般性が見られることを明らかにした。
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