研究概要 |
C-F…M^+相互作用の強さを定量的に見積もるためにアルカリ金属カチオンとフルオロベンゼン6つを構造単位とする化合物1との錯形成の熱力学的データを測定した。その結果、エンタルピー変化、ΔH値は-0.74〜-16.1kcal mol^<-1>であり、錯体が非常に安定であることがわかった。またフルオロベンゼン4つ、エチレンオキサ部位2つを持つ化合物2を合成してカチオン錯体の結晶構造解析を行い、フッ素、酸素、窒素がカチオンに対して示す捕捉能の寄与をBrownの式によって見積もった。これより、2においてフッ素はカチオンの安定化に窒素よりも大きく、また酸素とは同等かより大きく寄与していることがわかった。さらに1,2のセシウム,タリウム錯体の^<19>F NMRではM^+…Fのスピンカップリングが観測された。NH_4^+⊂1ではC-F…M^+相互作用だけでなくC-F…HN^+水素結合の有無に関しても検討した。その結果、結晶構造解析からはC-F…HN^+水素結合の可能性があるように思われたが、溶液中でのIRおよび^1H,^<19>F NMRスペクトルでは水素結合を示す明確な証拠は得られなかった。このC-F…M^+相互作用はどのようなカチオンに対して存在するのかをNMRを用いて種々の金属カチオンとの相互作用を調査した。1,2を用いた場合、イオン半径の小さなイオンや加水分解しやすいイオンでは錯体が不安定であるが、ほとんどのカチオンでC-F…M^+相互作用が観察された。 従ってカチオンのソフトーハードの性質には関係しないようである。C-F単位はカチオンに配位する能力は小さく双極子-カチオン相互作用がC-F…M+相互作用の主な原因であると予測される。従って炭素に共有結合したフッ素原子(C-F単位)はすべてのカチオンと相互作用すると予想される。
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