研究概要 |
硫化ナトリウムとcis-1,2-ジクロロエチレンとの反応により合成した員数の異なる新規な種々の不飽和チアクラウンエーテル(15,18,21員環化合物)と銀イオンとの錯形成反応について検討した。アセトン中、15員環不飽和チアクラウンエーテル(15-UT-5)(UT : Unsaturated Thiacrown ether)と当量のトリフルオロ酢酸銀との反応により、銀錯体[Ag(15-UT-5)(CF_3COO)]が得られた。この錯体は空気中でも安定で、X線結晶構造解析により結晶状態において、分子内の6個の硫黄原子のうち3個が銀に配位していることが明らかとなった。また、18員環不飽和チアクラウンエーテル(18-UT-6)と当量のトリフルオロ酢酸銀との反応においても同様に、錯体[Ag(18-UT-6)(CF_3COO)]を得ることができた。しかしながら、21員環不飽和チアクラウンエーテル(21-UT-7)と当量のトリフルオロ酢酸銀との反応においては、1:1錯体を得ることはできず、2当量のトリフルオロ酢酸銀との反応において、1:2錯体[Ag_2(21-UT-7)(CF_3COO)_2]が得られた。また、^1H-NMRでの滴定実験の結果、これらの不飽和チアクラウンエーテルは銀イオンの取り込みにおいて、環の員数により取り込む銀イオンの数に高い選択性があることが明らかになった。対応する飽和のチアクラウンエーテルでは取り込む銀イオンの数の選択性は低く、不飽和チアクラウンエーテルにおいては炭素鎖を炭素-炭素二重結合にすることによって分子の柔軟性が抑制され、銀イオンの取り込みにおいて選択性が現れたものと考えられる。また、錯形成することにより不飽和チアクラウンエーテルは酸化されにくくなり、また銀イオンは還元されにくくなっていることが酸化還元電位測定によって明らかになった。
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