研究概要 |
配座に依存した磁性を示す機能性分子を開発することを目的として,σ軌道を通した開殻π電子系間のπ-σ-π型相互作用について調べた。 同じ開殻パイ電子系を有し,空間的な配置のみ異なる二つの分子骨格;9,9,10,10-テトラメチル-9,10-ジヒドロアントラセンと9,10-エタノ-9,10-ジヒドロアントラセンの各々の2,6-位および2,7-位に開殻中心としてのナイトレンを持つ四種の分子を極低温で発生させた。そのEPRスペクトルを測定し,温度依存性を調べた。観測された5重項スペクトルについてシミュレーションを行い,微細構造パラメーターを求めた。またモデルのジラジカルについてDFT計算を行い,1重項,3重項状態でのスピン密度分布,項間のエネルギー差を算出した。それらの結果より,前者ではthrough-bond機構によるスピン整列が起こり,後者ではthrough-space機構でスピン整列が起こるため,二つの分子系間で基底スピン状態が逆転していることが分かった。従って,同じメチレン鎖長で隔てられた分子系でありながら,配座に依存してスピン伝達機構が変わり,その結果,基底スピン状態が変わったことになる。これは配座に依存した磁性分子を創製し得ることを示した点で意義がある。 次に,π-σ-π型相互作用を有する簡単な分子系として,1.2-ビス(4-ナイトレノフェニル)エタンについて調べた。EPRスペクトルで観測された5重項種は,熱励起状態にある。分子軌道計算によれば,5重項の非結合性軌道では,中央のシグマ結合と二つの開殻パイ電子系が反結合的に相互作用している。その結果,1重項とのエネルギー差が大きくなっている。 以上のようにシグマ電子系で隔てられた開殻パイ電子系の相互作用について調べた。
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