研究概要 |
シグマ結合系の両端にラジカルを持つ化合物のスピン整列を調べた。 1.N-(2-メトキシカルボニル-2-イロエチル)(3-ナイトレノフェニル)アミニルを極低温で発生し、EPRスペクトルを測定した。この開殻種は、メチレン鎖で隔てられたC, Nヘテロ1,3-ジラジカルと一中心ジラジカルであるナイトレンから成る特異なヘテロ5重項種である。この五重項種は、5K以上で1,3-ジラジカル部分が閉環し不可逆に死滅する。16Kで最も変化量が多くかつ初期の半分の量になる。マトリックスサイトに依存した活性化エネルギー群を持つとするとこの挙動を説明でき、平均の活性化エネルギーが3kJ/molと見積もられた。 2.trans-1,4-シクロヘキシレン-及び1,3-アダマンチレン-ビス(p-ナイトレニルベンゼン)において、五重項ジナイトレンを観測した。一重項-五重項間のエネルギー差は、EPR実験より各々138,300J/molであった。DFT計算によれば,π-σ-π超共役による軌道間相互作用により五重項が不安定化することがエネルギー差に反映している。through bond相互作用によるスピン整列が,アルキル鎖長で4程度までは有効であることが分かり,今後磁性分子を設計する上で意義がある。 3.2で述べたthrough bond相互作用は,介在する軌道のエネルギーレベルに依存することを利用すれば,電気陰性基による架橋ではスピン整列せず,電子供与性の架橋ではスピン整列するスイッチング機能をもつ機能性磁気分子を創製できるのではと考えた。それを検証するためのモデルとして,(ジナイトレニルフェニル)メタンのメチレン部をトリフルオロメチル基とメチル基で各々置換したジナイトレンを調べた。後者では大きな反強磁性相互作用があるのに対し,前者では,一重項-五重項は縮重していた。予想通り架橋部への電子効果で磁気的性質をスイッチングできる事が分かる。機能性磁気分子の設計に役立つ知見である。
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