研究概要 |
既に報告しているキレート型ジシリル配位子xantsil[(9,9-dimethylxanthene-4,5-diyl)bis(dimethylsilyl)]を含む新しい金属錯体として,(xantsil)M(CO)_4(M=Fe,Os)および(xantsil)Ru_3(CO)_<10>(H)_2を合成し,構造を明らかにした。前者の鉄およびオスミウムの単核錯体は,ルテニウム類縁体と異なり,トルエン中で還流してもη^6-トルエン錯体(xantsil)M(CO)(η^6-C_7H_8)には変化しなかった。後者の三核錯体では,xantsil配位子は二つのルテニウムを架橋していることがわかった。またη^6-トルエン錯体とHSiMe_2SiMe_2ORとの反応で合成したビス(シリレン)錯体(xantsil)Ru(CO)(H)(SiMe_2…OR…SiMe_2)では,xantsil配位子が2つのケイ素だけでなく酸素でも金属に配位し,三座配位子として働いていることを明らかにした。 ケイ素を配位原子とする新しいキレートを含む鉄錯体として,Si-O-C-O-SiおよびSi-N-C-O-Siという鎖(置換基は省略,以下同様)の両端で配位した6員環錯体,Si-O-C-N,Si-N-C-P,Si-O-C-SおよびSi-O-C-Teという鎖の両端で配位した5員環錯体,さらにSi-PおよびSi-Sが配位した3員環錯体を合成した。これらの合成には,光によるカルボニル配位子の解離によって誘起される転位反応,Si-H結合の酸化的付加反応,3員環キレート錯体に対するケトンの挿入反応等を利用した。生成したどの錯体においても,キレート効果に基づく錯体の安定性の増加が見られた。また結晶構造解析およびNMRスペクトルの結果から,これらの錯体中の金属-ケイ素結合は多少とも不飽和結合性を帯び,錯体はシリレン錯体としての性質を持つことがわかった。このことは,その反応性によっても裏付けられた。
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