研究概要 |
含イオウ有機配位子のうち、ベンゼン環に複数のベンジルチオエーテル基を有する化合物は特異な性質を示すことが知られている。光による可逆的な変色現象を示すことである。本研究では銀(I)錯体を合成し、その構造と性質、特にクロミック現象に焦点を当て研究した。ベンゼン環に複数のベンジルチオエーテル基を持つ1,3,5-位(3b s b)、1,2,4,5-位(4b s b)さらにすべての水素原子を置換した化合物(6b s b)をフッ素置換ベンゼンを出発原料にチオラートアニオンによる求核置換反応を利用して高収率で合成した。それぞれ、IR、MS、MR、元素分析より同定した。合成した銀(I)錯体の構造と性質は次の通りである。 1.[Ag2(3bsb)2(ClO4)2]錯体 単結晶X線構造解析の結果、銀には3つのイオウ原子と対イオンである過塩素酸イオンである酸素原子が配位し、四面体構造をとっている。配位子1分子中の3つのイオウ原子には異なった銀が配位している。また、配位子2分子が2つの銀によって架橋された二量体を形成しており、全体としてこの二量体が連結した二次元シート構造をとっている。側鎖のフェニル基の立体障害のためπ-π相互作用やS...S接触の弱い相互作用はシート間には認められなかった。しかし、この白色結晶に紫外光を照射すると褐色に変色し、50-100°に加熱するか、溶媒蒸気にさらすと元の白色に戻ることがわかった。紫外光照射後および白色に戻したもののESRスペクトルを室温で測定した結果、g値が2.003と2.008の二つのシグナルが観察され、これは有機ラジカルに対応しているものと推定した。 2.[Ag(4bsb)](CIO4)錯体 銀には4つのイオウ原子が配位し、対アニオンである過塩素酸イオンは配位していない。全体として銀(I)と4b s bが交互に連結した一次元鎖状構造をとっている。4b s bは紫外光照射により可逆的な変色現象を示すことが報告されているが、本白色錯体に紫外光を照射しても、変色現象は示さなかった。これはAg-S間距離が[Ag2(3bsb)2(ClO4)2]錯体と比較し、0.08-0.1Å長いことと錯体の骨格構造が影響しているものと推定した。 3.[Ag2(6bsb)(C2F5COO)](C2F5COO)(toluene)2錯体 銀には2つのイオウ原子と対アニオンの酸素原子が配位したものと3つのイオウ原子が配位した二種類があり、三配位構造をとり、全体として、一次元ジグザグ構造をとっている。本淡黄色錯体に紫外光を照射すると分解し、溶媒可溶となった。
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