研究概要 |
ニトロシルクロム錯体[Cr(NO)(NH_3)_5]^<2+>(A)の合成および物性はかなり以前に報告されていたが、そのX線構造は未定であった。興味深いことに、錯体Aはその外圏イオンにより固体状態の色が変わることも知られている(たとえば、ACl_2は橙色、過塩素酸塩A(ClO_4)_2は緑色)。このたび、あらたに塩化物イオンおよび過塩素酸イオンを対イオンとする錯体ACl(ClO_4)の合成に成功するとともにこれら三種の錯体の単結晶X線構造解析にも成功した。2種の陰イオンを対イオンとして含む赤紫色の錯体ACl(ClO_4)は、塩化物ACl_2を希過塩素酸から再結晶することにより得た。ACl_2の固体および水溶液中の色はともに橙色であるが、ACl(ClO_4)およびA(ClO_4)_2の水溶液中の色は、固体中と異なり、ACl_2の場合とまったく同じ橙色である。反射スペクトルの600nm付近の吸収極大はACl_2が最も長波長側にあり、ACl(ClO_4)、A(ClO_4)_2の順に短波長側に移動している。 三種の錯体ACl_2,ACl(ClO_4),A(ClO_4)_2のX線構造解析によると、錯陽イオン中の結合距離と角度は陰イオンが変わってもほとんど変化せず、また、Cr-N-Oの角度は180度に近い。ただし、O(NO)-N(NH_3)^*はACl_2では3.19(3)Åであり、ACl(ClO_4)の値3.437(7)Å、A(ClO_4)_2の値(>3.6Å)にくらべてかなり短く、水素結合の存在が推定される。 私たちはAの最適化構造をab initio計算で求めたが、その結果はX線構造解析の結果と良い一致を示した。
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