脱窒過程の一部を担うヘム型亜硝酸還元酵素の反応機構を解明するため、その酵素モデルの作成を行った。本酵素は、ジケト型イソバクテリオクロリンをその活性中心にもつ。そこで、化学的にジケト型イソバクテリオクロリンの合成を行った。ポルフィリンを出発原料としてオスミウム酸化によりモノケト型クロリンとした後、異性体を分離後、もう一度オスミウム酸化を行いジケト型イソバクテリオクロリンを合成することができた。得られたジケト型イソバクテリオクロリンに鉄イオンを挿入した。得られた鉄錯体は、アポミオグロビンに1:1で取り込まれ、安定な複合体を形成できることがわかった。そこで、さらに触媒活性をもたせるため、ミオグロビンの変異体の作成を行った。亜硝酸還元酵素の活性中心と類似の構造をとるようにするため、ミオグロビンのヒスチジン-64をチロシンに変異させた。さらに、触媒活性をあげるため、ロイシン-29とフェニルアラニン-45をそれぞれヒスチジンに変異させた。3重ミュータントを大腸菌で発現させたところ、十分な発現量の変異型ミオグロビンを単離することができた。さらに、これをアポ化したのち、ジオキソイソバクテリオクロリン鉄錯体と複合体を生成させた。カラム分離後、種々の分光学的性質を測定した結果、今回の変異ミオグロビン-ジオキソイソバクテリオクロリン複合体は、亜硝酸還元酵素の分光学的性質とよい一致を示した。これは、変異ミオグロビン-ジオキソイソバクテリオクロリン複合体が、亜硝酸還元酵素のモデル酵素になることを示し、当初の目的の一つを達成すことができた。さらに、このモデル酵素に亜硝酸イオンを添加したところ、鉄3価の活性中心に配位することがわかった。これは、酵素反応が鉄2価を経由して進行するというこれまでの提案とは異なる結果を示し、鉄3価での反応機構の可能性を示唆した。
|