写真の色増感は銀塩微粒子上に吸着した色素からの光励起電子移動によって起こる。世界最高の時間分解能を持つフェムト秒蛍光寿命測定装置を主として用いて、色増感機構の超高速ダイナミクスの基礎的研究を行った。すでに工業的には銀塩の結晶系と大きさの制御、過剰に与える銀イオン量の制御、吸着色素の種類、色素会合状態(通常J会合体と呼ばれる特殊な配列状態)の制御、異種添加色素による強色増感(スーパーセンシタイゼーション)など会合状態の制御などを通して、細密性感度、色調、色感、安定性などを向上させてきた。写真工業においては、早い時期にすでにサブミクロンのテクノロジーを達成し、さらに表面マイクロエネルギー制御や表面色素配列技術などを独自に進歩させている。したがって本研究の内容も多岐にわたることとなる。 初期段階として流動性ゼラチンに分散させた試料を用いて吸着色素の蛍光寿命の測定を種々の条件で行った。研究の後半(次年度)では実際に近いフィルム上の同一システムの研究を行う予定である。分散システム測定用試料架台を作成した。銀塩の結晶形(立方晶形、斜方晶形)によって原子の現れる面が異なるので、吸着分子の電子環境は異なり、電子移動速度も異なると考えられる。実際、結晶形によって吸着色素の蛍光寿命が異なることを初めて見出し、これが表面マイクロエネルギー条件によるとの仮説で実験結果を説明した。結晶粒子サイズもハロゲン化銀の空間電荷層が伝導帯と荷電子帯エネルギーのバンドベンディングを与え電子移動の速さに影響を与えるものと思われる。実際蛍光寿命の変化が認められた。これらについて現在解析を行っている。
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