本研究では、写真の分光増感における電子移動過程の研究で世界で初めてフェムト秒時間分解蛍光測定を用いて、増感色素の間の励起エネルギー移動と臭化銀への電子注入過程を観察した。1)臭化銀のナノ結晶表面の色素会合体から光誘起電子注入速度を測定した。これはピコ秒からサブピコ秒で起こる極めて速い過程であることを見出した。最も速いもので2x10^<12>s^<-1>程度(即ち0.5ピコ秒程度の短時間で起こる)。2)電子注入速度は臭化銀結晶系({111}面をもつ八面体乳剤と{100}面を持つ立方体)、結晶の大きさ(0.9-0.04μm)、によることを発見した。3)結晶の周りの銀イオン濃度(pAg)などによって変化を大きく受けることを初めて実測し、その原因を考察した。4)色増感色素にある条件を満たす別の色素を共吸着させることによって、増感感度を飛躍的に増大させる技術(強色増感またはスーパーセンシタイゼイション)の微視的な機構を明らかにした。5)感光色素間のエネルギー移動は時間分解蛍光異方性観測を行って、臭化銀のナノ八面体結晶の(111)面に整列した(<110>方向)色素間のエネルギー移動が約100フェムト秒(0.1ピコ秒、速度にして10^<13>s^<-1>の超高速度)で起こることを観測した。
|