磁場は反磁性物質でさえ並べることが可能であるから、原理的にほとんどすべての物質を組織化できる。この能力は磁場の大きな魅力である。脂質膜は磁気異方性分子からなる協同的組織である。脂質分子の磁気異方性をΔ_xとし、協同的に磁場に応答するドメインに含まれる分子数をNとすると、このドメインが磁場Hの中でもつ磁気エネルギー[(1/2)H^2Δ_xN]はNが1×10^8で熱エネルギーと同程度となり、このようなドメインは磁場によって配向可能である。 ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)脂質二分子膜の膜電位及び膜抵抗は磁場に鋭敏に応答して、その変化は0.15T付近で極大になる。これは、磁場強度の増加とともに脂質分子軸が磁場に対して垂直に配向することによる膜密度の増加と、それに伴う水/炭化水素鎖界面の不安定化による膜密度の減少がその原因と推定される。12Tを超える強磁場では、膜の波打ちによると思われる膜電位の大きな変化が観測された。 強磁場下での膜の変形は脂質膜の中空球であるリポソームを楕円形に歪ませるといわれている。この膜の変形はさらに進んでリポソームの磁場融合や磁場分裂を引き起こすことがわかった。磁場強度の変化によるリポソームの粒径分布の変化の様子を図1に示した。磁場中での膜の状態は膜の磁気エネルギーと膜変形に伴う弾性エネルギーとのバランスによって決定される。n個のリポソームが融合して半径がr_0からrになる条件を示すと、図2のようになる。n>1のとき融合、n<1のとき分裂、n=1のときリポソームは磁場に対して安定である。同じ図に10Tの磁場を318KでDPPCリポソームに印加したときの粒径変化もプロットした。膜の曲率半径20nmの膜に対する安定領域(陰をつけた部分)に多くの実験点が含まれた。この特徴は同じr_0に対して、融合も分裂も起こりうることである。磁気異方性の大きなアントラセンやピレンは低磁場からリポソームの粒径変化をもたらした。
|