圧力誘起超伝導体Cs_3C_<60>の超伝導相の特定と、圧力誘起超伝導機構の解明のために、常温・高圧のX線回折、低温・高圧のX線回折、高圧ラマン、常圧でのESR、常圧の電気伝導および高圧での交流帯磁率測定を行った。高圧でのX線回折パターンは、30kbar以上でのA15相の消滅を示した。また、低温・高圧でのX線回折から、超伝導領域に当たる温度・圧力領域でもA15相は存在せず、体心斜方晶(bco)のみが存在することがわかった。これらの結果は、超伝導相がbco相であることを示唆している。また、Cs_3C_<60>はCs_4C_<60>と同形構造でありその違いはCsの占有数が0.75から1.00に変わるだけである。これは、Cs_3C_<60>とCs_4C_<60>の中間相が存在することを意味している。また、ラマンから求めたCs_<3.2>C_<60>の電子-格子結合定数λは常圧で0.23であり、通常のフラーレン超伝導体と比べて小さい。また、その値は高圧領域でも超伝導を発現できるほど大きくなかった。これは、この相が超伝導相でない可能性を示唆している。これを調べるために、Cs_<3.0>C_<60>および中間相の常圧での輸送特性をESRと電気伝導から調べた。得られた結果から、Cs_<3.0>C_<60>以外の中間相、すなわちbco相のCs_<3.2>C_<60>やCs_<3.4>C_<60>は通常の金属ではないことが見いだされた。一方、Cs_<3.0>C_<60>は金属的であった。一般に、フラーレン超伝導体では、金属的挙動を示す相のみが超伝導転移を起こす。したがって、中間相は超伝導相ではないことが予想されるが、高圧での交流帯磁率からも中間相は超伝導ではないことが見いだされた。以上の結果から、bco相のCs_<3.0>C_<60>が圧力誘起超伝導相であると結論された。現在、bco相のCs_<3.0>C_<60>の圧力誘起超伝導転移を直接確認するためにCs_<3.0>C_<60>の高圧交流帯磁率測定を行っている。
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