研究概要 |
1.負電荷を有するポリスチレンラテックス微粒子にカチオン界面活性剤を吸着させた系では,表面電荷が丁度打ち消しあう時よりも,僅かに負電荷が残っている時の方が迅速に粒子凝集することが見出されている.この挙動の原因を明らかにするため,ラテックス粒子へのカチオン界面活性剤の吸着量を測定した.その結果,分散媒中の活性剤濃度が極めて低い条件下でも活性剤は多量に吸着しており,粒子凝集が顕著となる時(活性剤濃度:2μM)では粒子の表面負電荷一個あたり6〜30分子もの活性剤分子が吸着していることがわかった.これは,ポリスチレン粒子はかなり膨潤していて,カチオン活性剤分子は粒子内部に対イオンを伴って潜り込んで吸着し,粒子表面全体の疎水性を増加させていることを示唆する.一方,ポリスチレン粒子を原子間力顕微鏡のコロイドプローブとし,コロイド粒子-シリカ基板間に働く力測定を行ったところ,活性剤濃度が2μMの時に大きな付着力が観測された.したがって,分散液で見られる迅速な粒子凝集は,接触した微粒子同士が強い付着力で結びつくことで起こると考えられる. 2.粒子の分散安定性には吸着した両親媒性分子の溶媒和や吸着層の力学特性が重要な役割を果たすので,両親媒性分子薄膜の物性や薄膜間に働く力の性質をよく理解する必要がある.そこで,リン脂質分子が水中で自発的に形成する2分子膜を吸着膜のモデル系として取り上げ,膜の力学特性の評価を行った.光学顕微鏡で観察可能な巨大リン脂質ベシクルを実験対象とし,このベシクルをマイクロピペットで吸引して変形させ,変形に伴う表面積の変化と吸引圧との関係からリン脂質膜の面積弾性率を求めた.その結果,アルキル鎖の長いリン脂質の方が面積弾性率が高いことや,膜中に疎水性ペプチド(グラミシジンA)を導入すると膜が柔らかくなるが,コレステロールを導入した場合には固くなること等が確認された.
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