研究概要 |
分子内で水素結合を形成させるためには水酸基などの官能基が近づく必要があるため,ピリジンの2,6位に鎖を導入したような化合物を系統的に合成した. はじめにピリジンジカルボン酸酸塩化物とエチレングリコールを反応させて直鎖状配位子(1)を合成した.1は無水溶媒中からは水を含まない化合物として単離されたが,水を飽和したクロロホルムを用いるとピリジン窒素原子,末端水酸基の酸素原子,およびもう一方の水酸基の水素原子によって三点で水素結合した水包接錯体が得られた.この錯体は1H-NMR,IR,元素分析,ならびにX線結晶構造回折によってその構造を確認した. また,水包接錯体は両末端の水酸基の酸素と水素原子を使って二分子で擬似環状構造をとっていた.配位子1が形成する空孔は水分子の大きさに極めてに適合しているため,水に近いが大きさが若干異なる分子,たとえばメタノール,ホルムアルデヒド,アンモニアおよびホウ酸などの分子ではこのような包接錯体を形成しなかった. 配位子1に等モルのチオシアン酸リチウムおよびチオシアン酸カリウムを加えたところそれぞれ異なる形の分子間集積型の錯体が得られた.1-LiSCN錯体はリチウムイオンが橋架けした[7.7]シクロファン構造が末端の水酸基を使って水素結合した高分子状錯体であった.一方,1-KSCN錯体はカリウムイオンが配位子と同一平面状に存在したような高分子状錯体であった. 今後はこれらの錯安定度定数の測定を行う.また,配位子の錯形成部位を他のユニットに変えた化合物も合成したのでそれらについても錯体の構造等について検討を進める.
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