フォトクロミック化合物を実用材料として用いる際には、固体膜においてフォトクロミック反応することが必須である。これまで、ポリマー媒体中にフォトクロミック化合物を分散する方法が一般的に行われてきているが、コントラストの点からフォトクロミック化合物をそのまま固化させることが望ましい。この目的のため、基本骨格として熱安定性、繰り返し耐久性をあわせもつジアリールエテンを基本骨格に選び、幾つかの方法でこの誘導体を重合させた薄膜を作成することを目指した。今年度の課題は、電解重合で膜を作成するのに適したジアリールエテン誘導体の構造と作成した膜のフォトクロミック反応性について検討することである。電解重合で膜を作成するのに適したジアリールエテン誘導体の探索として、まず重合官能基としてフェノール部をもつ誘導体を合成した。このうち、フェノールの水酸基の位置の違いを検討した。保護基を導入することにより、市販の原料から6-7ステップを経て、フェノール部をもつジアリールエテンを合成した。合成したジアリールエテンについて電解重合の他、酸化重合、ノボラック=レゾール樹脂の縮合反応なども検討した。これらのうち、酸化重合により溶媒に不要な重合膜が作成でき、これは紫外光照射により着色し、続く可視光照射によりもとのスペクトルに戻るフォトクロミズムが観測された。電解重合では現時点で膜はできるものの、少しの電圧の変化によって異なった結果を与え再現性に乏しい。さらなる実験条件の検討が必要である。ノボラック=レゾール樹脂の縮合反応の条件では、重合当初はフォトクロミック膜ができるものの、重合の進行に伴い色変化を示しにくくなった。これは重合の進行に伴い、分子のおかれている環境が、異性化できる自由度を失っていくためだと考えられる。
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