研究概要 |
大半の生体膜に多量(50%以上)に含有される炭素数18のジアシルフォスファチジルコリン(DPPC)と水との2成分系の水分率を変えての一連の示差走査熱量測定(DSC)を行い,氷融解曲線をコンピュータープログラムに従って成分分割することで,各々の水分率での不凍結層間水,凍結層間水およびバルク水として存在する水分子の数を見積った。有限量の最大層間水はDPPC1分子当り,不凍結水としては5分子,凍結水としては5分子の,計10H_2Oの水分子数であることを明らかにした。また,冷凍層間水は結合様式の異なる4種の水分子が存在することが明きらかにされ,それぞれの水分子の運動状態を明らかにする目的で,H_2OをD_2Oに置換した「DPPC-D_2O」系での5℃温度での縦緩和時間(T_1)を^2H-NMR測定から決定し,さらに温度を-60℃から30℃までに渡って変化させ^2H-NMRスペクトルを測定した。その結果,T_1からは3成分の凍結層間水が存在することが明らかにされた。上述のゲル相試料の実験結果と対比させて,より熱力学的に安定なサブゲル試料を熱処理によって作製し,同様の実験方法においてDSCとNMR測定を行った。DSCからはサブゲル相での最大・不凍結水分子数は6分子,また最凍結水分子数は4分子であることが見積られた。又T_1測定からは,2成分の凍結層間水の存在が明らかにされた。以上の事より,サブゲル相はゲル相よりも1分子に相当するより多い水分子を親水頭部間に保有し,この水和効果がサブゲル相の安定化に関与していることが明らかにされた。
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