本研究では、機能性ナノ空間を有する物質として、フラーレン化合物および単層カーボンナノチューブ(SWNT)を取り上げた。SWNT試料の細孔構造と熱処理による細孔構造の変化について、77Kにおける窒素ガス吸着等温線測定及びXeガスを吸着させた単層ナノチューブ試料のその場観測^<129>Xe-NMR測定により明らかにした。その結果、適切な熱処理により、チューブ先端のキャップに穴を空け、チューブ内のナノ空間に各種原子分子を内包させることが出来ることが明らかとなった。さらに、上記の方法で細孔構造の評価を行った良質の試料について、十分に高純度の水素ガスを用いて水素吸着等温線を調べることにより、チューブ固有の水素吸着特性を明らかにした。SWNTは電子材料としての可能性が指摘され、世界中の多くの研究グループによりその電子状態に関する研究が繰り広げられているが、本研究では、様々な条件で単層カーボンナノチューブ集合体及びアルカリ又はハロゲンをドープした単層カーボンナノチューブ集合体の合成を行い、それらの試料について100Kから5Kの温度領域における^<13>C-NMRスピン-格子緩和時間測定を行い、ドーピング量に伴う極低温における電子状態の変化及び、Raman散乱における伸縮振動モードと電子状態の対応付けを行った。その結果、ドープした単層カーボンナノチュープ集合体の電子状態は、rigid band的な描像が比較的良く成り立つ系であることを明らかにした。さらに、^<13>CをエンリッチしたC_<60>及びC_<70>分子を用いて高純度C_<60>内包SWNT及びC_<70>内包SWNT試料を合成し、600Kから5Kにおよぶ広範囲な温度領域において^<13>C-NMRスペクトル及びスピン-格子緩和時間(T_1)測定を行うことにより、内包されたC_<60>及びC_<70>分子の局所構造、動力学および電子状態を解明した。この結果、Raman散乱や電子線回折実験の結果から指摘されていた、C_<60>内包SWNT内のC_<60>重合体構造は本質的な構造でないことを明らかにするとともに、その特異性(内部圧力効果、分子運動における一次元性に基づく揺らぎを伴った相転移現象)を解明することに世界で初めて成功した。それらの成果については、英国及びオーストリアで行われた2つの国際会議において招待講演を行った。
|