研究概要 |
不安定な官能基を持つ化合物は、一般に高い反応性を持つので、その合成の研究は従来にない反応性の発現を可能にするのみならず、結合論における新たな知見をもたらすと考えられる。本研究では、そのような不安定化学種としてヘテロ原子を含む-X-Y=Z型化合物である-S-N=O、-O-N=Sを取り上げた。この不安定化学種を持つS-ニトロソチオール(-S-N=O)は、脂肪族では比較的安定に存在する例もあるが、芳香族では単離例が報告されていない。一方、O-チオニトロソアルコール(-O-N=S)は、これまで合成された例はない。そこで、我々が開発したbowl型反応場であるBmt基を立体保護基として用い、その合成について検討した。まず、Bmt骨格を有するチオールを亜硝酸t-ブチルと反応させることにより初めての安定な芳香族S-ニトロソチオールを合成することに成功した。また、そのX線結晶構造解析を行い、芳香族S-ニトロソチオールの分子構造を初めて明らかにした。さらに、その反応性についても検討した。次に、O-チオニトロソアルコールは、かさ高さが異なる2,6-Dipp_2C_6H_3基を用いてもその合成について検討し、Bmt基と比較検討した。それぞれ、フェノールへの変換は、対応するハロゲン体のリチオ化およびそれに続くトリメトキシボランとの反応、さらに過酸化水素による酸化により達成した。次に、ヒドロキシルアミンへの変換は、Bmt基の場合、種々のアミノ化剤との反応を検討したが、O-アミノ化は進行せず、C-アミノ化した化合物のみが得られた。そのうちの一つは、興味深い転位反応をした。2,6-Dipp_2C_6H_3基では、(2,4-dinitrophenoxy)amineを用い反応条件を検討することにより、対応するヒドロキシルアミンに変換することに成功した。目的とした初めてのO-チオニトロソアルコールは、このヒドロキシルアミンを二塩化硫黄と反応させることにより合成できたが、単離にはいたらなかった。
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