オクタノール/ベンゼン混合溶媒の有用性は安息香酸による銅(II)イオンの抽出で示してきたが、ベンゼンは発ガン性が指摘されているので、より低有害性を考慮して、ベンゼンに代わり非溶媒和性溶媒としてはオクタンを用いることにした。抽出試薬としては、キレート抽出試薬として最も広く利用されてきているオキシンに着目し、金属イオンとしては3価のAl、Ga、Inを選択し、混合溶媒の有用性を検討した。 オキシン自身の分配平衡に関する研究では、低pH領域ではオキシニウム陽イオンがハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオンとイオン対を生成して抽出されることを明らかにし、イオン対生成定数とイオン対分配定数を個々に求め、定量的考察を行った。上記の金属イオンに関しては、混合溶媒系ではいずれもM(Ox)_3として抽出されることを明らかにし、混合溶媒の組成を変えて抽出を行うことにより、ほとんど明らかにされていないM(Ox)_3錯体の分配定数を求めることに成功した。その結果、オキシン錯体の分配定数とオキシン自身の分配定数には、ベンゼン以外の溶媒系では高い相関性があり、錯形成時にかなり電縮効果が働くこと示すことができた。混合溶媒の組成を適宜変えることにより、今まで不可能であった細かい部分の抽出平衡の解析も可能にし、このような面でも混合溶媒の有用性を示すことができた。 一方、2-(2-ピリジルアゾ)-1-ナフトール-4-スルホン酸(α-PAN-4S:H_2L)イオン(HL^-)は、アルコールが溶媒和したヒドロキソニウムイオンによりアルコール/オクタン混合溶媒にイオン対として抽出されることを見つけ、その抽出性が他のアルコール溶媒と比べて1-オクタノールのみが極めて大きいことを明らかにした。その時、ヒドロキソニウムイオンには1-オクタノールが3分子溶媒和していることも明らかにした。このような抽出平衡は、単独の溶媒を用いる抽出系では明らかにすることができなかったことであり、混合溶媒が抽出平衡の解析に非常に有用であることをイオン対抽出系でも示すことができた。
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