研究概要 |
ポリオキソタングステン錯体は,従来の有機試薬と金属イオンとの錯生成反応と異なり,タングステン酸イオンと異種イオン種とが酸素原子を共有し縮重合することにより生成する。対応するポリオキソモリブデン酸錯体に比べ錯体の種類が圧倒的に多く,本研究により分離分析化学の飛躍的発展が期待できる。 新規ポリオキソタングステート生成反応の基礎検討として,イソポリオキソタングステートの生成条件の確立およびボルタンメトリック酸化還元挙動について検討した。まず,水溶液系および水-アセトニトリル混合溶媒系におけるタングステン酸イオンの縮合反応を検討した。酸濃度の高い水溶液系で生成する黄色酸化物(WO_3)沈殿が,アセトニトリル混合溶媒系では生じないことを見出し,〔W_<10>O_<32>]^<4->の生成領域の高酸濃度側に〔W_6O_<19>]^<2->が安定に生成するためであることを明らかにした。従来の水溶液系に比べ,新規錯体の合成条件を飛躍的に拡大することができた結果,ドーソン型18-タングスト硫酸錯体を始めとして,ケギン型混合タングスト硫酸錯体,タングストガリウム酸錯体,タングストテルル酸錯体,タングストバナジン酸錯体など数多くの新規タングステン錯体を合成に成功を収めた。現在,これらのポリオキソタングステン錯生成反応に基づく各種酸素酸イオンの高感度定量法への応用研究を進めている。 従来ポリオキソタングステン酸錯体は高濃度条件下でしか生成せず,しかも反応速度が極めて遅いため,その生成反応を分析目的に利用できないとされていた。しかし,あらかじめ合成したタングストリン酸錯体,[PW_<11>O_<39>]^<7->などの欠損種を配位子として用いることで,キャピラリー電気泳動法によるSb(III),Bi(III)の同時定量,Te(IV),Te(VI)やV(V),V(IV)などの同一元素の酸化数別状態分析が可能となることを見出した。それらの研究成果については現在投稿準備中である。
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