研究概要 |
課題中の"マクロ界面"は電極界面のような通常の界面を指し,"ナノ界面"はイオンと溶媒分子間の分子レベルの界面を指す.ナノ界面の界面エネルギー(すなわち溶媒和エネルギー)に関しては,古くからボルン型の静電理論が用いられてきたが,最近我々は,イオンの溶媒間移行エネルギーの研究から,イオンと溶媒との近距離相互作用が重要であることを明らかにし,新しい非ボルン型理論を提案した.この理論では,イオン-溶媒分子間の近接相互作用エネルギーが,イオンの表面電場の二次関数で近似できることが示された.この依存性は,マクロ界面である水銀電極の界面エネルギー,すなわち界面張力の電位依存性(電気毛管曲線)に類似している.そこで,以下の作業仮説をたてた: 「ナノ界面とマクロ界面の界面エネルギーが本質的に同じであれば,マクロ界面の一つである水銀電極界面の表面エネルギーも電極の表面電場(E)の二次関数で表され,その二次の微係数がドナー数(D_N)やアクセプター数(A_N)などの経験的溶媒パラメーターと相関を持つであろう.」 この作業仮説を検証するため,各種溶媒中でイオンの特異吸着のない水銀電極界面の微分容量を交流インピーダンス法により測定し,拡散層の寄与を補正した表面エネルギー(γ_i)を評価した.γ_iはEに対して二次の依存性を示し,Eの正負の領域の二次の微係数(a_+およびa_-)について各種溶媒特性との相関を調べた.調べた十種類すべての溶媒については,a_+,a_-はどの溶媒特性値ともほとんど相関を持たなかったが,水銀電極と特異的に結合するホルムアミドとN-メチルホルムアミドを除外すると,a_+,a_-は溶媒の分極率に対して有る程度の相関を示し,D_NやA_Nなどの経験的溶媒パラメーター(単位面積当りの溶媒分子数を考慮)に対して予想通り比較的高い相関(それぞれr=0.821,0.910)を示した.このように,上記の作業仮説は支持された.
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