研究概要 |
本研究は、昆虫免疫系関連遺伝子の多様化を考察するために、ショウジョウバエ抗菌タンパクセクロピン遺伝子群内に含まれる雄特異的抗菌タンパクアンドロピン遺伝子に着目し、分子進化・分子遺伝学的手法を用いて、その進化の道筋と機能分化のメカニズムを明らかにすることを目的としている。既に、アンドロピンはセクロピンよりも進化速度が早く、キイロショウジョウバエ近縁種間において、推定されるアミノ酸配列が大きく異なること、その進化には正の自然選択の作用が指摘されている。本年度は、アンドロピン遺伝子の起源と遺伝子発現について以下のことを明らかにした。 1.アンドロピン遺伝子の進化 キイロショウジョウバエ近縁6種からアンドロピン遺伝子を含む領域のクローニングを行い、塩基配列を決定した。調べた種の中で、D.kikkawai,D.ananassae,D.pseudoobscuraではアンドロピン様の配列が見られなかったことから、アンドロピンはD.kikkawaiとmelanogaster種亜群の種分岐の間(約800万〜1300万年前)に出現したことが分かった。一方、D.takahashiiでは、他種とは異なるアンドロピン・セクロピン様遺伝子が2つ(tak-1,tak-2)観察され、種分岐後に遺伝子群の形成が行われたと考えられた。 2.アンドロピン遺伝子発現に関する種比較 アンドロピン遺伝子の上流にはショウジョウバエグルコース脱水素酵素(Gld)遺伝子の雄射精管特異的発現に関わるモチーフが複数見られ、配列も保存されていた。一方、近縁種におけるアンドロピン遺伝子の発現は、全てキイロショウジョウバエと同様に雄成虫射精管に限定されたことから、アンドロピンの組織投機的な発現とGldモチーフの存在に正の相関があると考えられた。これらのことから、アンドロピンは、セクロピンと共通祖先遺伝子から調節領域に雄成虫射精管投機的な発現様式を獲得してから急速に機能分化を遂げたと考えられた。
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